綴ルンです

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巡る目黒は目くるめく 4

巡る目黒は目くるめく 3 - 綴ルンです

漁樵の間を出て、次に入ったのは草丘の間。

礒部草丘が、格天井の草花絵と欄間の広々とした風景画を描いた部屋だ。実際、部屋が広い。

先ほどの漁樵の間が濃すぎて、急にサッパリした印象だったが、障子の細工がさりげなく見事。面腰組子というらしい。

個人的には、谷間から昇る虹の絵がすてきでいいと思うな。日本画で虹ってそんなに見てないんで。

 

階段を上って、次に静水の間。

これも橋本静水という画家の名前だが、この部屋の絵は3名が手がけている。

奥の間の格天井は池上秀畝、四方の欄間は小山大月で、手前の部屋が橋本静水によるものとのこと。

最も天井の低い間だというが、てことは格天井の絵が近く見えるのだが、なぜか圧迫感はない。

むしろ、鳥の絵はこれまでの部屋にもたくさんあったのに、奥の間の天井に描かれた鶴のかわい美しさに、思わずキュンときた私♪

近くでよく見えたからかなあ。

それからおもしろかったのは、食事風景の再現。

丸くどっしりとした座卓は、いわゆる中華テーブルになってて、2段目の盤が回る仕組みになっているらしい。

供していたのは北京料理と日本料理だという。

テーブルの上にも、金色の食器やら魚の姿揚げのサンプルやら、龍と鳳凰が向き合った雅叙園のシンボルマークが線彫りされた銀の入れ物やらが並び、

その向こうの障子には、箱膳を重ねて運ぶ日本髪の女性の姿が影で浮かんでいた。

どこもそうだが、裏方は忙しいなんてもんじゃないよね。

しかし料理と食器の豪華さ、これ婚礼の宴席での食事なのかな。

あと、当時の新聞広告とか、宿泊や料理の料金表とか、結婚式のご案内とか、展示されてたのはこの部屋だったっけか。

「これ今だったらいくらぐらいだろう?」

「✕10くらいじゃない?」

なんて同行者と話したが、文面の文字がどれも小さくて、そこに経年劣化で少し薄くなってるから読みづらいこと。

昔の人って目がよかったんだわねえ。

 

廊下から横並びで星光の間。

こちらは天井も欄間もすべて板倉星光の草花絵。

もちろん絵も美しいが、特筆すべきは丸太。

床柱は無論のこと、四隅の角柱から長押に至るまで

角材ではなく丸太を使って組んでいるのだ。

また、こちらの障子も精巧な美しい組子で、感嘆するより他ない。

 

そして階段を上り、清方の間。鏑木清方だね。

おお、あの鏑木清方 と思うも、名前を知ってるだけでどんな作品を描いたかは、えー・・・。

入ったら、欄間に美人だらけ。はい、美人画の大家でした。

二間のこの部屋では、まず天井が見どころ。

帯状の薄い木材を互い違いに織った網代あじろ)天井が二間とも張られており、その上(この場合、下?)に天井画が描かれた板を張っている。

ただ、素材が落ちるのか、極細糸のネットもかかっていた。といっても、鑑賞の妨げにならないのはさすが。

本間には、広い座卓を挟んで座椅子&脇息が向かい合わせに置かれてて、どうやら座っていいらしい。

そんなん座るでしょうよ。座布団フカフカだし。

他のお客さんの様子をお互いに見ながら順番に、

旅客気分でおくつろぎ〜〜♪

脇息にちょっともたれてみたり。えへへ。

そして、この本間の床柱がすごい。

天然杉のぶっとい総丸太は、当時の価格で家3軒分。あばら家じゃないぞ。普通の家だぞ。

ここまでも、相当惜しみなく財を注ぎ込んでいるのが分かったけど、

逸材と見るや即決で手に入れるって、どんだけの資金力だよ。

破格っぷりに再びのクラクラ。

 

そしてついに、頂上の間。

こちらはタイルカーペットが敷き詰めてあり、

現代のアート作家とのコラボレーションイラストパネルが展示されていた。

あとはクリスマスの時期らしく、壺に飾られた金銀の枝っぽいオブジェも。

奥の本間にはモニターとイスがあり、雅叙園についての歴史紹介ムービーを流していた。

このモニターが床の間に据えられていたのだが、

画面の周囲を掛け軸の表装仕立てにしてるもんだから、機械が入っている違和感が一切ない。

抜かりない、なさ過ぎるぞ 雅叙園

ところで、このムービーでも昔の写真でも、トイレがとにかく豪華という話があり、

小川が流れて赤い欄干の小さな橋が架かってて大岩がドーン、みたいなトイレなのだが、

百段階段のトイレはさっき見て、でも広かったけど豪華ではなかったし、写真とはまるで違うし、

それはもうないのかも。残念。

これまでの部屋では、人が多く出入りするから床に座って休んだりできなかったのだが、

頂上の間では、広さとカーペットのおかげで、やっと床に直座りして足と腰を休めることができた。

「上るとわりと、「え、もう?」って思うけど、やっぱり足腰は疲れてるね〜」

と同行者とうなずき合う。99段上ったんだもんね。

え、99段?百段じゃないの?

ないの。

未完の美か、最大奇数を並べた縁起担ぎか、はて。

怪談の百物語も99話で終わらせるわね。

 

各部屋の出入口には、屋内屋のように屋根の先っちょが作り付けられていたり、

屋内窓の形が花頭窓のように抜かれていたり、

部屋がなくなり(焼失したんだっけな?)そこに入るための階段だけが数段残っていたり、

廊下の電灯を壁から支える木材にも透かし彫りが施されていたり、

部屋の前を囲む廊下には、橋の欄干のような低い柵が作られ、その柱1本1本の根元の両脇に広がるように、波と鯛の木彫り装飾があったり、と

とにかく手の掛け方が徹底してる。

部屋の中だけ芸術空間にしよう、ではないのだ。

実用性を損なわずに建物丸ごと芸術だ。

床の間や柱で漆の塗り方の技法が違うよーという解説板がどこかの部屋にあり、行っては戻りして見比べたりもした。

伝統技法も、暮らしから離れてしまい、教養として見るようになってしまったな。

惜しむらくは、庭。

今も坪庭のようなものは見られるが、かつては広大な庭があったらしいから、窓からはそこの景色も楽しめたろう。

さらに池などの水場があったなら、水音で耳も楽しそうだな。そりゃぜいたくだ。

 

階段を下りて、ミュージアムショップの品ぞろえを同行者と楽しみ、

曲がったスロープを上って、靴を履いた。

美を楽しんだだけのはずなのに、情報が多くて頭の処理が追い付かないねー と話しながら、

エレベーターで1階へ。

最初のエントランスに戻り、百段階段の見学はこれで終了したのだが、

雅叙園はまだ終わらせなかった。

 

続く