帰宅途中、かすかに、本当にかすかに、
金木犀の香りを感じて、
ああそういえば!と、それがまだ無かったことに気が付いた。
待ち遠しいほど大好きな香りを忘れるくらい、
今年の夏はひどく暑かったんだな。
毎年楽しみにしているその生け垣を見ると、
小さなつぼみたちはひそやかに色づいている。
あんなに小さな橙色の花なのに、
その香りは遠くまで広がる。
金木犀の香りが流れると、
やっと秋だなあ、と感じる。
馥郁たる香りを胸いっぱいに吸い込むと、
幸せ気分もいっぱいだ。
早い時は9月の下旬に咲き始め、
ひと月後に二度咲きしたりするが、
こんなに遅いのは、あんまり覚えがない。
ひと雨ごとに秋が深まる、ともいう。
昨日の雨で、少しは深まったのだろうか。
今年は夏がギリギリまで居座ったから、
いちょうも桜も色づきが緩やかだ。
銀杏だけがボトボト落ちて踏みしだかれている。
あ、どんぐりもすこぶる転がってた。
このまま静かに空気が澄んでいけばいい。
金木犀の香りに安らげる日々が、
なんと安寧であることか。
そう考えさせられるほど、
今 世界が悲しすぎる。