「ええ、心当たりはありましたわ。確かに以前、まとめてそこに置きましたの。でも、もうすっかりなくなったものと思っておりました。それが、まさか、まだ奥の隙間に残っていたなんて。その恐ろしい有様といったら、見付けた時にはわたくし、思わず叫び声をあげてしまって・・・」
はい、ちょっとシャーロック・ホームズに事件のあらましを話す依頼人のご婦人ぽく書いてみました。
しかし事件は自分で起こしてる。
使い切ったと思ってたブツは、焼海苔。
台所の棚を整理した時、奥から発掘したのだが、
透明な袋の中、未開封で乾燥剤が入っているのに、しなびて縮んでよれて赤茶けており、
賞味期限が2021年6月、数量は30枚入。
げーーーー!
こんなん存在忘れる?なーにやってんのー!海苔だって今高いのに、もったいないー!しかも30枚!
外見から察するに、未開封で乾燥剤入りとはいえ、袋のミクロな穴から空気が入って吸湿と酸化をしたのだろう。
アルミ袋だったらまだ保ったかもしれないのに。
あ~あ、と思いながら袋を開けて、中身の様子をダメ押しで確認してみた。
そのまま捨てるには未練が大きくって。ダメ元ではなく、確認のダメ押し。
が。
腐ってるわけではなく、試しに端っこ食べてみたら食べられる。酸化臭などもそんなにない。
焼海苔としてはムリだけど、
・・・佃煮にできんじゃね?
こっからダメ元。30枚もの焼海苔を佃煮にすることにした。
これがダメなら潔く捨てちゃる。
海苔の佃煮なんて作ったことないけど、
海苔を水分でふやかして、砂糖と醤油で炊けばできるでしょ。
と始めてみたが、量の見立てが大甘だった。
酒とみりんと醤油の水分ごときでは、30枚もの焼海苔はふやけない。
水を足し、水を足し、水を足し、水を足し、
混ぜて混ぜて、水を足し。
気付けば大きな鍋が黒々とした物体でいっぱいで。
焼海苔ってすごかったんだね、とても引き締まったものだったんだね。乾物だもんね。
ムクムクと膨れ上がる海苔を混ぜながら、味の調整をして炊いていき、
当初想定量の数十倍ほどの佃煮が炊き上がった。
測らなかったけど、総重量で2kg以上は確実にあったと思う。
小瓶に詰めて売るんですかと言われてもおかしくない量。こんなにどうしよう。
どうしようったって原料からして人に分けられるものでもないんだから、
しこたま食べるしかなかろう。
粗熱を取って、まずはまとめて保存用の大きなガラス容器に入れ、
食卓用には中くらいのガラス瓶に入れて、
中瓶が空いたら補充する方法にした。
お店のよりも薄味仕立てになったなあ。
味薄くて冷蔵庫でどれくらい保存できるかな。
それからは来る日も来る日もおかずは海苔の佃煮。
ご飯だけじゃなく、そうめんのつゆに混ぜたり、
パンに乗せて食べてみたり。
適当に作った割に、我ながらうまくできたから、
カビたり腐ったりする前に食べ切りたい、と
自主的に至上命題化。
味が薄いから量いける。
お腹を壊すこともなく。
せっせ せっせと食べ続け、
一度だけ、小分けのビンを冷蔵庫にしまい忘れて腐らせたので、100gくらい捨てたけど、
それ以外は約ひと月かけて食べおおせたとも!
3年前に賞味期限切れの海苔、食べたったどーー!
というのが、8月から9月にかけてのこと。
この夏一番達成感があったことかもしれない。
何か去年から、古いものを食べる自信だけつけてる気がしないでもないな。
そして事件は無事、
私の腹の中に片付いたのでした。