先月、美術展に行った。
東京国立博物館 平成館で開催されている特別展
『やまと絵 ー受け継がれる王朝の美ー』
である。
12月3日までの会期期間中、およそ10日ごとに作品の展示替えや場面替えが行われる。
一番の見どころは、
平安時代末に制作された最高傑作の四大絵巻
・伴大納言絵巻
・鳥獣戯画
を、一度に見られること。
中でも伴大納言絵巻は、他の3点が会期中に場面替えするのに対し、作品そのものが会期始めの10日間しか展示されない。
つまり、四大絵巻の集結もわずか10日間。
レア度マシマシ、急がなければ。
とて、美術に造詣のある友人を巻き込んだ。
美術展は、だいたいどこも入り口付近が混み合う。
今回も例外にあらず。
で、そのうち人がバラけて見やすくなるのだが、
この特別展は、人のバラけと密集がクッキリしていた。だってみんな四大絵巻を見たいのだ。
スタッフさんが繰り返す。
「立ち止まらずにお進みください。先に他の作品をご覧いただいて、後から戻ってのご観覧もできます。」
後から戻ってきたって絶対混んでるでしょ。しかもどこから割り込めばいいのさ。
列の進みは昔の国会議員の牛歩戦術並み。
それでもジリジリと、まずは源氏物語絵巻。
思ったより小さく、線が繊細。ボロボロだなあと感じたが、経た年数を思えば、色の残り具合など素晴らしいとも思う。
次の信貴山縁起絵巻は、庶民が描かれていてコミカルで見やすい。画面全体が朗らかだ。
主役が神通力を持った高僧なのだが、身なりが質素で足丸出し。その痩せた脚の描き方をどこかで見たなと思ったら、『サザエさん』(長谷川町子)の原作マンガに出てくる脚と似ていたのだった。当然こちらが先だが。
伴大納言絵巻は、夜中に起きた宮中の火事が題材なので、武士と貴族がワラワラいる。
前に並んでいた紳士によると、所蔵している出光美術館でも10年に1度しか公開してないとのこと。本当かどうかは調べてないから分からないが。
友人と、火事だから風向きがね~、烏帽子や服のなびきがね~、などと話していたら、
後ろからご婦人が「そうなのよ、これね、」と話しかけてきた。とても詳しい解説。
ご婦人は、この伴大納言絵巻を見たくて来たそうで、「今2周目なの。もう1周しますよ。特集したTV番組も見たの。」と、かなりの熱の入れようだった。
最後は鳥獣戯画。思ったより大きい。線が太い。
昭和の終わりに描きましたと言われても不思議じゃないほど、絵が鮮やかだ。色味がないから、逆に古びないのだろうか。
私はこれをいつか生で見たいと思っていたので、
見られて実に嬉しかった。
もっとじっくり見たかったが、そこは仕方がない。
四大絵巻の観覧、これにてコンプリート。
もちろん興味深いのは四大絵巻だけでなく、
国宝の『片輪車蒔絵螺鈿手箱(かたわぐるま まきえらでんてばこ)』『蒔絵箏(まきえごと)』などの工芸品の数々、
書の作品に隠された葦手書き(あしでがき。文字を絵画化して散らし書きにする書き方)、
やまと絵が描かれた料紙(かな作品用に加工・装飾された紙)、
迫力と華やかさのある屏風、
他 様々な絵巻も見応えたっぷり。
室町時代に描かれた『百鬼夜行絵巻』は、彩色がハッキリパキッとしており、描線の滲みもないので、
どうやって色塗ったんだろうね、なんかアニメっぽい、きれいだね〜と友人と話していたら、
前にいた男性が「ねえ、アニメみたいだねえ。ほら、あれ、あの〜、」と話しかけてきた。
妖怪絵巻だから、「『ゲゲゲの鬼太郎』ですか?」と問うと、
「そう、それ!それみたいだねえ。」と男性。
年代的に、初代のモノクロ鬼太郎を見てたのかな。
東博はさすがの人の多さで、
うるさくはないが静かでもない。
私のようなおしゃべりには、嬉しい博物館だ。
あんまりしゃべりながら見てるもんだから、
気安く話しかけられるんだろう。
けど、それでもまずそんなことないし、
まして二人も話しかけてきたのは初めてだ。
きっと彼らも楽しく見てたんだろう。
国宝を見分ける眼力の持ち主である友人と、
注意されることなく気ままにおしゃべりしながら鑑賞できて、私も楽しいひとときを過ごせた。
持ち帰った出品目録を見てると、あれもこれも感想を述べたくなるが、
書き切れる数ではないのでやめておく。
そうそう、忘れちゃいけないさり気ない見どころ。
学芸員によるキャプション。
簡潔で端的で、時に作品への愛を感じた。
これからご覧になる方がいたら、お見逃しなく。
そして、やっぱり、
おみやげにクリアファイル・・・。